ダンプねえちゃんとホルモン大王(ネタバレ)
ダンプねえちゃんとホルモン大王※この記事は、2009年12月22日にアップしたものです。
2009/日本 上映時間110分
監督・脚本: 藤原章
出演:宮川ひろみ、デモ田中、坂元啓二、徳元直子、酒徳ごうわく、切通理作、花くまゆうさく、浦島こうじ、渋谷拓生、吉行由実、篠崎誠、高橋洋
(あらすじ)
将来の夢がなく、何となく暮らすダンプねえちゃん(宮川ひろみ)は、ある日、街に現われた世界ケンカ大会のチャンプ、ホルモン大王(デモ田中)に一目ぼれするも、粗暴な性格の大王に犯されてしまう。武道の達人だった医者(切通理作)に助けられたダンプねえちゃんは大王に復讐(ふくしゅう)を果たすため猛特訓を始めるが……。(以上、シネマトゥデイより)
予告編はこんな感じ↓
90点
※今回の記事はかなり残酷な描写や酷い性表現などが含まれます。そういうのが苦手な人は読まない方が良いです。
「ダンプねえちゃんとホルモン大王」を渋谷アップリンクXで観てきました。インディーズ映画だし、かなり独特な演出だし、世界観もちょっとおかしなことになっているので、正直、あまりオススメはできない作品だとは思うのですが、僕にとっては実に心温まる映画でした。以下、ネタバレ全開で感想を書きますが、かなり露骨な性描写やグロ描写があるので、そういうのが苦手な人は読まない方が良いと思います…。
「オールアフレコなのに口が合っていなくてもあまり気にしないという独特の演出」「役者陣の過剰で不思議な演技」「ダメ人間ばかり出てくるおかしな世界観」「画面から漂ってくるチープな空気(自主映画なので仕方ない)」などから、かなりハードルが高い作品にはなっております。…がしかし! あらすじを読んでもらえれば分かる通り、「主人公が酷い目に遭ったことがキッカケとなって特訓し、敵に復讐する」という70年代のカンフー映画(「蛇拳」とか「酔拳」とかが分かりやすいですな)のフォーマットを踏襲した映画なので、ああいうのが好きな人ならグッとくると思うんですよね。
宮川ひろみさん演じるダンプねえちゃんは単なる無職。女性なのに滅多に風呂に入らず、しかも500以上は数えられないので、定食屋ではいつも500円の玉子丼を注文し、500円以上の買い物は万引きするというガッカリな人なんですが、非常に魅力的でした。濡れ場で脱いだり、男子でも確実に赤面してしまいそうなダイレクトな下ネタを連発していたりと、「スゴい女優さんだなぁ」と感心することしきり。あと、何度か出てくるダンスシーンでは微妙に可愛らしかたり。
ストーリーの序盤で、ボンクラな日々を送るダンプねえちゃんは、世界ケンカ大会のチャンピオンとして名を馳せていたホルモン大王と出会い、恋人同士になるワケです。ここら辺は非常に牧歌的で明るい感じだったんですが、ホルモン大王が“極悪人の本性”を現してからがエグい。【ダンプねえちゃんの妹分で妊娠中のポンコ(徳元直子)の目を潰し、胎児を引きずり出してからお尻を犯して殺し、さらにその胎児を“ホルモン”だと騙してダンプねえちゃんに食わせるんですよ!?】 あまりの残酷さにビックリしました(それでも作品全体の雰囲気は牧歌的)。そして、ダンプねえちゃんもホルモン大王にお尻を犯されてしまい、重傷を負ってしまいます。が、切通理作さん演じる医者(実は武道の達人)に助けられ、復讐のために過酷な特訓を積むんですね(ダンプねえちゃんは特訓の一環としてゴリラ人間(実は医者の息子)と闘うんですが、この時、切通さんが叫ぶ「ゴリラ、ゴーゴー!」はかなりインパクトがあって、今も耳から離れません)。
で、ラストバトルに臨むんですが…これがスゴかったです。あの格闘家・村田卓実さんと漫画家兼柔術マスターの花くまゆうさくさんがホルモン大王の兄弟役で登場(村田さんが三男で花くまさんが次男)。ここで、「大王はケンカチャンピオンではない(「ケンカ世界大会なんてないよ」とアッサリ否定)」「単なる“尻好きの変態”で、あちこちで問題を起こして家族に迷惑をかけている」という驚きの事実が発覚し、兄弟は「恥をかかせやがって!」とホルモン大王をリンチします。それを見たダンプねえちゃんは、「これはアタシの問題だから」とリンチを止めさせてホルモン大王を一方的にボコるんですが、今度は三男が突然「やっぱり兄弟だから」とダンプねえちゃんを襲い、恐ろしく殺伐とした攻めを見せる(リアルでちょっと引く)という、これまたビックリな展開に。
「もうダンプねえちゃんも終わりか…」と思ったところで、「ダンプねえちゃんの生理が始まった」とのアナウンスが流れ(格闘中に生理になって、しかもそれで強くなるヒロインを初めて見た)、友人たちの想いや師匠の言葉が蘇り、今までの努力が結実した反撃を開始! 体臭や股間の臭いを駆使した飛びつき三角絞めで三男を倒し、次男は口臭でひるませて首を吹っ飛ばして。最後はホルモン大王に馬乗りになって目潰しをしようとするんですが、やはり一度は愛した人だからなのか、ダンプねえちゃんは目潰しを止め、メキシコに旅立って終わってました…。
ラストバトルのくだりを読んで、「くだらないな~」と思う人は結構いると思いますが、僕も書いていて心からそう思います。でも、ヘタなアクション映画より全然面白かったんですよ、これが。村田さんと花くまさんは格闘家としても知られてはいますが、宮川さんは素人。武術指導がつくワケじゃないし、確かにアクションシーンとしてのレベル自体はそんなに高いモノじゃありませんが、カンフー映画に対する愛を非常に感じるというか(青空がやたら出てくるのもオマージュ?)。生理とか体臭を格闘に生かすという描写は、一見、くだらなく見えますが(まぁ、くだらないんですが)、序盤からちゃんと伏線を張って、それを最後の戦いで回収するという基本をしっかり踏襲しているから、観客もスムーズに感情移入ができて燃えられるんですよ。予算がこの映画の数百倍あっても、これができていないアクション映画がどれだけ多いことか…。そういうところが丁寧だからこそ、登場人物たちの行動自体は非常にバカバカしいのに観る人の胸を打つ作品になったんだと思うんですよね。
もちろん万人受けしないどころか、実際に観たら引く人が多い映画だとは思うんですが、僕はこの映画、大好きです。見終わったあと、つい劇場でサントラも買っちゃいましたが(1000円)、これも最高でした(特に「大平」の訳詞が素晴らしい)。ダメ人間が出てくる映画やカンフー映画が好きで、直接的な性描写やグロ描写に抵抗があまりなくて、インディーズ映画に対しての優しい目線があって、さらに時間とお金に余裕がある人は、東京は今月29日までの上映なので(来年1月2日からは大阪で公開予定)、急いで観に行くと良いかもしれません。ちなみに予告編冒頭で「暴徒化する在日アメリカ軍5万4千人を相手に独りで闘った女がいた」というテロップが表示されますが、設定上はそうなのかもしれませんが、作品内でそんな描写は一切ないので要注意です。
藤原章監督作。僕がダラダラ駄文を垂れ流すより、町山さんの文章を読んだ方が見たくなると思うんですよ。
2011/04/16 03:35 | 映画(2009) | TRACKBACK(1) TOP